高橋 | 今週ご紹介するのは、 愛知県の「関谷醸造」さんで作られている 蓬莱泉(ほうらいせん)「和」です。 |
---|---|
―― | ラベルの筆の字が特徴的ですね。 裏には「和醸良酒(わじょうりょうしゅ)」 という単語が書かれていますが。 |
高橋 | 「和醸良酒」という言葉は日本酒の世界に昔からあって、 いろいろな捉え方をされています。 このラベルに書かれている「和」は この「和醸良酒」から取ったものですね。 |
高橋 | 言葉の説明をすると、 まず「醸」についてですが、 醸すというのは生み出すとか、 雰囲気を作るという意味があります。 なので『和』を持って『醸』さないと 『良』いお『酒』は出来ない。 つまり蔵人全員で協力して、 一つの輪になって酒造りをしないと 良いお酒は出来ないという捉え方があります。 今は現場統括をする杜氏さんがいて、 菌の管理をしているがいて、 仕込みをやる人も別に責任者がいて、 といった感じで細分化している蔵元さんが多いので、 この言葉は大事な意味を持っていると思います。 一方で、「良い酒は和を生み出す」という捉え方もあるんです。 僕は酒屋を営んでいるので、後者の捉え方が好きですね。 |
---|---|
―― | 日本酒を作っている人にも、 飲んで楽しむ人にも響く言葉ですね。 このお酒は「熟成生酒」という名称がついているんですが、 熟成させると美味しくなるお酒ということなんですか。 見たところ2007年に造られたということみたいですが。 |
高橋 | これは関谷醸造さんが 1年熟成させてから販売を始めたんです。 なので、生酒に熟成という単語がつけられているんですね。 |
―― | 蔵元さんが一度熟成させてから 販売する日本酒もあるんですね。 |
高橋 | そうなんです。 よく「寝かせると美味しくなくなる」とか、 「日本酒は3ヶ月で飲まないとダメだ」とか 言われるんですけど全くそんなことはなくて。 しっかりと保存すれば熟成されて良い味になります。 |
―― | すごいまろやかな味ですね。 |
---|---|
高橋 | このほどよい辛さと甘さと… これは鍋といっしょにいきたいですね。 |
―― | たしかにこの味だと鍋と一緒に飲むと楽しめそうですね。 ちなみに「清酒」というのはどういう意味なんですか。 |
高橋 | 清酒の意味は諸説あって、調べると 日本酒のルーツに繋がりそうな話が結構あるんです。 元々日本酒を作り始めたのが神社で、 巫女さんが神社で作っていたから 「清(める)酒」となったとか、 もっと昔だとヤマタノオロチを倒すために ヤマトタケルノミコトが酒を飲ませてから倒したとか、 それこそ本当にいたのかって感じなんですけど(笑) その時代から清酒と言われていたとか諸説あるんです。 現代でも、例えば僕の地元では お祭りの時に身体を清めるという意味で 日本酒を最初に飲むんですよ。 |
―― | いろんな意味があるようですが、 全体的に、清めるという意味があるみたいですね。 |
高橋 | 清酒の話を続けると、 島根県に出雲大社という神社があって、 そこには女神様がいるんです。 そしてその女神様が最初に日本酒を造ったから 清酒になったという話もあります。 お米を噛むことによって 唾液が炭水化物を糖に変えてくれるんですね。 で、糖までいかないと酵母はアルコールを造れないんですよ。 炭水化物だけだと自然発酵することなく ただ腐るだけなんですけど、 口で噛むことによって唾液が麹と同じ役割をするんです。 で、偶然の産物だと思うのですが、 噛んだお米を吐いてできた最初の清酒を作ったのが 出雲大社の女神様と言われているんです。 |
---|---|
―― | 昔はそれで日本酒ができてありがたがられていたんですね。 |
高橋 | この話には色々と面白い矛盾点があるんです。 まず多くの蔵元は女人禁制で、 日本酒作りに女性が関われないんです。 でも最初出雲大社でできたとするならば、 間違いなく巫女さんが作業をしていたはずなんですよ。 そうすると最初に日本酒を作った人は 女性なんじゃないかとなりますし。 今の蔵元が女人禁制になったのは、 出雲大社の女神様が嫉妬するからとか、 生理のときに舌の感覚が変わってしまう 可能性があるからとか、 諸説要因があると言われているようです。 |
―― | 歴史の中で自然に変わってきたんだろうとは思いますが、 気づいたら日本酒作りに関わるのが 男ばかりになっていたというのは面白いですね。 |
高橋 | もちろん今は女性が杜氏を務めている 蔵元さんも増えてきてはいるんですが、 歴史を辿っていくとどういう経緯で 女人禁制になったのかなぁと思います。 |
―― | 横道にそれちゃいましたが、 蓬莱泉で「和」ということは、 このお酒はシリーズものなんですか。 |
---|---|
高橋 | 蓬莱泉というのは銘柄で、一番有名なのは「空」ですね。 「和」はお店の倉庫にあったものを飲んだときに、 バランスが一番良いなと思ってラインナップに加えました。 最初の辛さから一気に米の甘さが広がって、 それが気づいたらなくなる。スッと消えるんですよね。 きれいな感じがすごい好きです。 |
―― | 自分のお店の倉庫の中で出会ったというのは 良いエピソードですね。 |
高橋 | そうですね。 でも、倉庫の中で全てを決めるのは 難しいことだなと思っています。 倉庫の中で飲むのは実質一人飲みで 周りに人もいないし、料理もないので。 お客さんにお勧めする日本酒を選ぶ時に一番大切なのは、 みんなで飲むのか、二人で飲むのか、 どんな料理と合わせるのが良いのか、 どれくらいの温度が美味しいのかといった感じで、 どんなシチュエーションで飲むのが良いかを考えることです。 なので、SAKELIFEのラインナップを選ぶときは メンバーと一緒に飲んだり、 食事のときに一緒に飲んだりと、 環境も大事にするようにしています。 |
―― | よりお客さんが飲むときに近い シチュエーションで選ぶというのは良いですね。 この蓬莱泉は先ほど鍋と合わせるといいという 話をされていましたが、熱い食事に合わせるので 冷やで飲むのが良いということですか。 |
高橋 | これは常温が一番バランスが取れています。 冷やだともう少しすっきりになりますし、 燗にするとまろやかになります。 酒が酒を呼ぶみたいなときってあるじゃないですか。 スイッチ入っちゃって 「やばい、いくらでも飲める!」みたいな感じで。 この蓬莱泉はまさにそれで、鍋と一緒に飲んだら、 気づいたらなくなってると思います(笑) |
―― | 気をつけないといけないですね(笑) |