フダンヅカイ×SAKELIFE
今週のSAKELIFE
蓬莱泉「和」(ほうらいせん)

天寿
(秋田県)

高橋 今週は秋田県の「天寿酒造」さんで造られている
「天寿(てんじゅ)」をご紹介します。

100歳のことを「天寿」と言うんですが、
このお酒はその名の通りみんなが長生きできるように、
という意味が込められています。
―― 良い名前のお酒ですね。
高橋 この蔵元さんはお米にすごいこだわっていて、
農家と直接契約して、蔵の人たちも手伝いに行って
お米を作っているみたいです。
―― たしかに、ラベルを見ると
契約栽培米というのが使われているみたいですね。
お米についての説明もしっかり書いてあって、
農家さんと仲間みたいな感じなんですね。
―― 日本酒を造るときはどこかの農家さんから
お米を買って…というイメージを持っていました。
高橋 自家農園で、完全に自分たちで
管理しているところもありますね。
―― なるほど。
それで、今回の天寿酒造さんは毎年
同じ農家のお米を使って造っていると。
高橋 そうですね。
でもやっぱり同じ農家、同じ品種のお米でも年によって
気候が違ったり、台風が来たりして味が変わるんですよ。
なので日本酒の味も毎年変わってきます。
―― 毎年秋に解禁になる
ワインのボジョレーも同じ感じですよね。
毎年「今年は豊作だったので…」
みたいな解説がつきますし。
高橋 日本酒も同じようなことができると思ってて。
ワインと同じで、今年出来たお酒は
今年にしか作ることができない味なので、
一期一会だなと思いながら飲んでいます。
―― 去年はこんな味で、今年はこんな味で、
というのがありますもんね。
高橋 加えて、保存状態で味も変わってきます。

酒屋はお酒を造ってはいけないんですが、
保存の仕方は温度は何度にしているのかとか、
UVカットは何を使っているのかとか多くの要素があるので、
同じお酒でも、酒屋ごとに味は変わってくると思います。

なので、スーパーとかだと売ることばかり考えてしまって、
管理しきれないものになってしまうんですよね。
本当にお客さんに合った1本を選ぶためには、
ポップ1枚書けばいいのではなくて、
売る人が実際に自分の舌で味わって紹介する形にしないと、
お客さんにおいしさを伝えることは出来ない
です。
―― このお酒は今年作られたものなんですね。
ラベルを見ると2012年10月と書いてあるんですが。
高橋 これは今年の10月に瓶詰めをしたという意味で、
仕込んだのは去年の冬からです。
「ひやおろし」というラベルがついているのは、
9ヶ月間寝かせて秋に瓶詰めしたからです。

ちなみに天寿はひやおろしだけでなく、
できてからすぐに瓶詰めしたものも出していますね。
―― できてすぐのものと、
熟成させたもの両方を販売しているんですね。
高橋 どちらも魅力が違うんですよね。
新酒の荒々しさ、熟成させた後の落ち着いた感じ、
両方に良いところがあります。
―― 絞りたてのものも飲んでみたいですね。
ところで、この天寿は生酒という表記がないので、
一度火入れされたものなんですね。
高橋 いつからかわからないんですが、
今は「ひやおろし」という表記があるものは
だいたい1回火入れされています。

通常だと絞るときに1回、瓶詰めするときに1回と
合計2回火入れをするんですが、
天寿はできたときに1回火入れして、
そこから貯蔵して熟成させるんです。
―― いろんな保存方法があるんですね…
高橋 今はひやおろしというと
最初に火入れをするのが通説になっているんですが、
昔は違ったんです。

昔は火入れの技術もなかったし、
暑い季節は蔵の中ですごして、
外が寒くなった時期に出そうというので
ひやおろしという名称がついているので。
―― 同じ単語でも、作るまでの過程が
昔と今は全く変わっているんですね。

そういう業界の慣習って、自分も含めて
日本酒を買う人のほとんどは
全くわかっていないと思うので聞いてて面白いです。
―― ちなみに、前回紹介してもらった「蓬莱泉「和」」は
高橋さんのお店の倉庫で飲んでいたときに
SAKELIFEのラインナップに加えることになった、
というお話だったんですが、
このお酒はどんな流れで加わったんでしょうか。
高橋 天寿は試飲会で見つけました。
日本名門酒会という卸さんがやっている
業務店用の試飲会があって、
そこで100種類くらい飲んだんですが、
天寿はその中で美味しいと思った中の1本です。
―― 100種類の中から選ばれたものだと。
味はどんな感じなんでしょう。
高橋 味についてはフルーティ、
という表現がぴったりなんですが、
ひとえにフルーティといっても多くの種類があるので、
もっと細やかな表現ができればと考えているところです。
―― フルーティと言われると
果物っぽい味がするんだろうなという
イメージがあるんですが、
実際に原料はお米だし、果物もたくさん種類があるし、
というところですもんね。
高橋 お米にリンゴ香という香りがあるんですね。
炊き立てのお米の匂いを嗅ぐと甘い香りがすると思うんですが、
それをリンゴ香というんです。
―― それがフルーティという表現につながるんですね。
高橋 香りってすごい大事なんですよ。
日本酒に使うお米は削れば削るほど
味はすっきりするはずなんですが、
なぜか削られたほうが甘いという
感想をもらうのは香りのせいだなと思っていて。

お米を削ると香りの濃度があがるので、
この天寿は味自体はすっきりしているはずなんですが、
香りの影響で濃くなったり、甘くなったりします。
なので、たぶん鼻をつまんで飲んだら味が変わるはずです。
―― それはありそうですね。

ところで話は変わりますが、この天寿は
「ワイングラスで美味しい日本酒アワード2011」
という賞を取っているみたいで。
日本酒をワイングラスで飲むというのは面白いですね。
高橋 これは僕も最近勉強したんですが、
日本酒をワイングラスで飲むと何が良いかというと、
香りを楽しむ時間がお猪口よりも長くなるんです。

お猪口で飲むと、口に入るまですぐじゃないですか。
でもワイングラスで飲むと口に入るまで余韻があるんですね。
そうすると香りを長く楽しめて、味も変わってくると。

器で全く味が変わっちゃうのは僕の中でも驚きで、
器による味の違いについては
もっと研究していきたいと思っています。
―― 飲む時のシチュエーション、
料理との合わせ方、温度、器の形と、
もう本当に色んな要素が
日本酒の味に影響を与えるんですね…。
高橋 SAKELIFEではそのお酒の味が一番活きる
ベストのシチュエーションを提供したい
と思っています。
それがお酒を楽しむ生活の提供にも
繋がっていくと思っているので。
生駒 お酒は本当に奥が深いです。
「お前とはいい酒が飲めそうだ」
って言葉を聞くことがあると思うんですけど、
実際に友達からそう言われたとき、
「あ、そうかお前と飲むかどうかで
酒が良いものになるかどうか変わるんだ」と気づいて。

誰と飲むかでお酒の味は変わるんだと思える
いい言葉だなと思いました。
―― 誰と飲むか、どんな場面で飲むかでも
味が変わってくるということですね。

いい言葉をいただいたところで今週は締めようと思います。
ありがとうございました。
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