加茂 | クリエイティブの流通を掲げて 今まではネットに流通の場を設けていたロフトワークが、 今リアルの場にもクリエイティブを 流通させつつあるということにすごく興味があって、 今日はお話をお伺いしたいなと思っています。 お時間いただきありがとうございます。 まず、ロフトワークがすごいなと思うのが、 登録しているクリエイターの方々の作品の質が 常に高いままできていることで。 ただ最初のころはちょっとサイトが重くて、 僕が田舎に住んでいた時期は 回線が遅くて見るのが大変だったんですが。 |
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林 | すいません(笑) |
加茂 | 質については、特に狙ってクリエイターを 集めていたわけではないんですか。 |
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林 | いま面白いなと思って聞いていたのが、 私たちは質を高めないというと変なんですけど、 「質は量が決める」というのを 実はモットーにしているんです。 多くの会社は、 いかにクリエイティブの質を高めるかってことを ものすごく優先されると思うんですよ。 でも私たちが最初に会社を作った時の問題意識は、 「誰が何を持って質が高いとか低いとかって言えるんだろう」 ということで。 世の中がどんどん変化していく中で、 「私が質を判断できます」という人って 本当に存在するのかって思ったんです。 何がクリエイティブで何がクリエイティブではない、 良い悪いっていうのはもちろんある程度はあるけれども、 誰かが決められるものではないと思っていて。 では大切にするのは何かとなったときに、 量を追求しようと。 10個の選ばれたクリエイティブを見せるより、 選んでないけど1万人を関わらせた方が クリエイティブの本当の価値を生み出せるんじゃないか。 だから、質、質、質、といって減らしていくよりも、 量が質を生む。 必ず私たちは量って決めているんですよ。 完成させてある一定になったら出せるといった 日本的な思考に対してアンチがあるんです。 クリエイティブはどんどんどん出していきながら、 進化して変化していくものであって、 ある一定のここまでいったらいいです、 プロです、プロじゃないですという そんな線がないっていうのがロフトワークにはあるんですよね。 |
加茂 | たしかにロフトワークに掲載されている 作品の量はすごいですもんね。多すぎて見きれないくらいで。 (サイトはこちら) 登録しているクリエイターも、 コーポレートサイトを見たところ16000人もいるそうで。 |
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林 | 今はそれより多くなりました。 |
加茂 | それはすごい。 ロフトワークのサイトを拝見していると、 だいたい絵を描いている人が多いなというイメージがあって、 あと面白いのが、ウェブサイトのデザインをしている感じの人が あまりいないところです。 だいたいクリエイターサイトって、 ウェブサイトを作っている人の ポートフォリオサイトになるじゃないですか。 一方でロフトワークは「作品」をあげている人が多くて、 そこが楽しいんです。この人会ってみたいなとか。 そう思える作品に出会えるサイトです。 |
林 | 嬉しいですね。 ただ、今はプロダクトデザインをやっている人も登録しているし、 イラストレーターのサイトという傾向があったので そこは変えていきたいなと思っています。 でも、「仕事ください」の形で見せると言うよりは、 自分が表現の1つの端的な例のものとして見せるという スタンスは変わらないでしょうね。 ビジネスとして「私仕事できます」とか 「イラストを発注してください」、 「ウェブ作れます」、というよりは、 「どういう思いで作ったウェブです」とか、 「どういう思いで作ったものです」とか、 そういう伝えたいメッセージが伝わるサイトに したいなって思っているので、嬉しいですね。 |
加茂 | 伝えるといえば、先日「ツタグラ」 (ツタグラ [伝わるINFOGRAPHICS] http://www.tsutagra.go.jp/) というプロジェクトを始められましたよね。 あれは伝える、ということを 形にしようと思って始められたんですか。 |
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林 | ツタグラはまたちょっと違っていて。 一昨年の東日本大震災が起こった時に、 それぞれがそれぞれのスタンスで、 一体自分に何ができるんだろうって みんなが思ったと思うんですよね。 そこで、デザインに関わる人間が、 情報を伝える、分かりやすくするっていう意味で、 グラフィックの力って すごく有効なんだなって再発見した時があって。 例えば、0.01マイクロシーベルトとか 数字が文章で書かれていても、 それが何とどれくらい違うものなのかとか、 どういう状況になっているのかとかわかりづらいんですけど、 実はグラフィックになってみると 一目瞭然だったりするんです。 だから、「難しい」、「こうしなければいけない」、 「勉強しなさい」というよりも、 もっとワクワクする形で人がいつも 社会課題に向き合っているとか、 理解が深まっているんだというプロセスも 大切なのかなと思ってツタグラをやっているんです。 |
加茂 | 伝える、という点でプロジェクトを始められたのは、 大学でジャーナリズムを専攻されていたことが 根っこにあるんですか。 |
林 | そうだなー。深い質問ですね… 伝えるって、難しいんだよね。 分かりやすく、伝える力を強めようとすると、 端的に分かりやすくするというのが手法としてあるよね。 そうするとものすごく分かりやすくなるんだけど、 端的にしてそぎ落としている分、本当はあったものを コンテクストとしてばさっと切り落としちゃう。 だからすごい伝わりやすいんだけど、 こんなに伝わりやすくしちゃっていいのか、 本当に伝えたいものが伝わっていないんじゃないか っていう気持ちにもならない? |
加茂 | なりますね。 分かるまでの経緯を省いた分かりやすい説明をされると、 分かるけど記憶に残らず、 本当のことが分からないまま終わっちゃいます。 |
林 | だから、ツタグラのプロジェクトを 原研哉さんと話しててすごく思ったのは、 クリエイティブの力で「伝えよう」とするのは初歩段階、 もちろんひとつのフェーズとしてあるんだけども、 それがもうひとつ違うフェーズになると、 「分かってないということを分からせる」にたどり着く。 原さんに 「もうちょっと分かってくると、分かってない、 ようは、分からなくさせるデザインってあるよね」 って言われて。 なるほど、 例えば生き方についての文章を書いていたとして、 最終的には「きっかけを大切に」みたいな わかりやすい文にするじゃない。 あーそうなんだ、って読む人はなるけど、 本当の意味ってそんなに簡単に伝わるものじゃないから、 書き手としてはむしろ クエスチョンマークにさせたほうがいいんじゃないの、 っていう疑問にまたぶつかる。分からなくさせる。 でも究極は原さんいわく、 「何も言わない」ことだという。 |
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加茂 | もう、考えてくださいという(笑) |
林 | そう。だから、 分からせる、分からなくさせる、何も言わない っていうレイヤーがあって。原さんに 「このレイヤーで僕は何も言わないを目指したい」 って言われた時に、 「すいません、ツタグラはまだ伝えよう、伝えようとしてて…」 みたいな(笑)。 伝えようとする人間は、伝わったという喜びと、 伝えたために伝えられなかったってことと、 なんかね、そういうことと闘いながら生きていく 職種なんだろうなと思ったりして。 |
加茂 | 伝わりすぎるものって、 歩みを止めちゃう人を出す気がするんです。 例えばテレビで、 誰かが悪いことをしたぞって報道されるとき、 証拠も出るじゃないですか。 その時点でもう僕らの頭の中には 「この人は悪い人だ」という結論が出てしまうけど、 例えばAさんにとってはすごく良い人かもしれない。 そんな一面もあると思うんですけど、 伝わりやすい説明によって 本当のことを理解できる機会を逃しているんです。 ツタグラも、伝わりすぎるグラフィックが出てしまうと その瞬間に「理解した、だからこれで終わり」 となってしまうかもしれないですね。 |
林 | そうだよね。だから、伝えすぎちゃだめなんだよね。 3分で分からせてはダメ。 3分でますます分からなくなる本みたいな(笑)。 そういうほうがいい。 だから私、今度も講演があるんだけど、 やっぱり講演する時に人が、 分かりやすいメッセージをください、答えをください! って期待がすごい高い。 その中で、いかに全く関係のないような、 だけど、じっくり考えてみるとそうだったのかもっていう、 そんなことを話したいと思っているんだけど、 それがあんまり度が過ぎると、 「わけわかんない」ってなっちゃうじゃない。 だからどのへんを落としどころにするのかっていうのに 挑戦しようと思っていて。 ウェブの人たちが集まる会なんだけど、 テーマは「革命を起こそう」にしようと思っていて(笑)。 革命からいかにウェブに近寄るかを今考えあぐねていて、 言い過ぎちゃうと面白くないから、 どこまで言おうかなという なぞかけを今やろうとしています。 |
(つづきます!) |