フダンヅカイ
浦上満さんプロフィール
もくじ
はじめに 農家とプロデューサー
第一回 日本橋は古美術商のメッカ
第二回 ニセモノは売る人も悪いが、買う人もある程度悪い
第三回 自分が持つよりふさわしい人に売る
第四回 みんな、自分の好きなモノにお金を使えていない
第五回 古美術品は「買う才能」がある
第六回 100人来たら2、3人は興味を持ってくれる
第七回 数字とは少し離れた世界
第八回 北斎漫画にまつわるあれこれ(日本編)
第九回 北斎漫画にまつわるあれこれ(海外編)
第十回 儲ける以上に大切なこと

第四回 みんな、自分の好きなモノにお金を使えていない

加茂 浦上さんは今までお店を営まれている間に
たくさんの取引を経験されたと思うんですが、
その中で印象的だった、幸せな結末を迎えた取引には
どんなものがあったんでしょうか。
浦上 おかげさまでうちはいろんなハッピーな取引があって、
お客さんもそう言ってくださる方が多いんですが、
印象的な方のお話をすると、
今70代の女性がいらっしゃって。
決してお金持ちというわけではないんですが、
骨董品好きな方なんです。で、うちに来るまでに
「10点買ったら全部ニセモノ」とか
散々だまされてきたんですね。

それもまただまされ方がひどくて、
ただふらっと買ったものだったらしょうがないけど
「この壷が欲しいので売ってください」と言ったら、
その骨董屋の主人が
「これは自分の骨壷にするので売れないよ」
とか言われてなかなか売ってくれない。
それでも懇願してやっと手に入れたはいいものの、
とある日に目の利く人に
「こんなものニセモノだよ」って言われたんです。

でも、そのご婦人は
「これニセモノじゃない!お金返してよ!」なんて言わず、
「あなたの骨壷を無理に譲ってもらったから
お返しするわ。値はいくらでもいいから」と言ったそうです。
でも、その骨董屋は「絶対引き取らない」と。
ということは、売った彼は初めから作戦で
「骨壷にする」って言ってたんですね。
そういう嫌な思いをしたら、普通の人だったら
二度と骨董品なんて買うものかとなるものなんですが、
その人は懲りずに買い続けたんです。ニセモノを。

で、あるとき、とある人に紹介されて
うちに来てからが非常に幸せというか、
彼女はそう言っているんですが、
うちで商品を買ってとても満足した。
そしてその後彼女は何を考えたかというと
「寄贈したい」と言うわけです。
結果的に大阪市立東洋陶磁美術館(旧安宅コレクション)に
彼女は僕の店で買った商品を5点、
あと、東京国立博物館にも寄贈をしています。
加茂 それはすごいですね。
浦上 ここがすごく大事なことなんですが、
一流の、日本を代表する美術館は「寄贈します」と言われて
「はい、いただきます」なんてことは絶対に言いません。
なぜかというと、そんなふうになんでももらっていたら
あっという間に倉庫がガラクタだらけになって、
処分も困っちゃうから。だから展示できるもの、
要するに非常にレベルの高いものしかもらわないんです。
なので、もらえただけでも大変なことなんです。

で、寄贈した美術館へ行くと、その人の名前があるんです。
本人は名前もいらない、勲章も要らないと
言っているんですけどね。
自分が寄贈したものが並んでいることが嬉しいんだそうです。
それがとてもハッピーな取引の一つですね。
加茂 騙され続けたのに、骨董品を集めたい、
という情熱を持ち続けたのはすごいですね。
浦上 本当に好きだったんでしょうね。
あと、その人は
「私のお友達は着物が好きだったり、宝石が好きだったり、
あるいは外国旅行に行って高いハンドバックを
買ったりしてるんだけど、私は全然それらに興味が無くて、
こういうモノに興味がある」とおっしゃっていました。
素晴らしいことじゃないですか。
加茂 自分の好きなモノがはっきりとわかっていたということですね。
浦上 そういうことです。
浦上 ほとんどの人は、
実は自分の好きなモノにお金を使っているか
といったら使っていないんです。
世間で「それは妥当だね」
と言われるモノにお金を使っている。
あるいは、いつか使おうと思って使わずに死んでいく。
非常に悲しいパターンで。
加茂 お金は貯まったけど、
特に買うものはなくて…みたいな感じで。
僕も今、「お金を使いたい好きなモノってなんですか?」
と聞かれたら、はっきりとは答えられないです。
浦上 お金ってそういうものなんです。
「さあ、何に使いましょう?」ってなる。
で、「とりあえず貯金しましょう」
みたいな話になって(笑)
加茂 将来もあるし、と(笑)。
僕はちょうど今結婚したばかりなので、
お金をどうするか?と聞かれたら
将来に回しちゃいますね。
浦上 それはそうですよね。
将来お子さんができたら教育費がかかるだろうし、
人間そんなものですよ。

でもですね、本当は、よく言われますが
葬式代くらいは残して、あとは自分で稼いだものは
自分で使って死んだほうがいいかもしれませんよ。

(つづきます!)
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