浦上 | 僕は時々こういう言い方をするんですね。 古美術品は「買う才能」があるんじゃないかと。 買えない人は億万長者でも買えないし、 才能のある人は月賦にしてでも買ってしまうと。 お金持ちが「君、適当に見繕ってくれたまえ」 なんて感じで買っていると思っている人がいるんですけど、 とんでもない話です。そんな人は一人もいないんですよ。 |
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加茂 | 僕は美術の世界にあまり詳しくないので、 そういうイメージは少なからず持っていました。 |
浦上 | 皆さんそう思っています。 |
加茂 | でも実際、こういったお店に飛び込んでみると そんなことはないとわかると。 |
浦上 | そうなんです。 で、買う行為の難しさというのは、 先ほど才能と敢えて申し上げたのは、 「ルビコン川を渡る」というか、 あっち側に行くような世界なんですね。 なので、お客さんが思い切ってこの世界に飛び込んできて、 素直に「どうしてもこれは自分のものにしたいんだ」 と思えるモノに出会うというのは幸せなことでしょうね。 僕も売る立場からすると、買ったものが口がきけたら、 そのお客さんの元へ行って「いいところへ来たな」と 喜んでくれるのが一番いいと思いますし。 |
加茂 | 浦上さんが売った商品が誰かの元に渡って、 さらに誰かの元に渡ることはあるんですか。 |
浦上 | ありますよ。 |
加茂 | そういったところが美術品はおもしろいなと思っていて、 歴史の中でリレーされていくわけじゃないですか。 その当事者になれるのが美術品を扱われる人にとって おもしろいところなんじゃないかなと考えているんです。 浦上さんの場合、相当昔のもの、 それこそ紀元前のものまで扱われているわけで。 ここに並んでいるものも かつては全然違う人が持っていて、 このお店にたどり着くまでに 何百人にもリレーされているかもしれないと思うと おもしろいなぁと。 |
浦上 | そうかもしれませんね。 リレーという観点でいくと、 一番それが多いのは茶道具屋さんです。 古くは千利休が持っていたとか、 これは私たちの世界では大変なことです。 大茶人が持っていたものですから。 でも気をつけないといけないのは、 「モノが好きなのか、それともその歴史が好きなのか」 ということです。 その点、今この店に展示しているものは紀元前のものだから、 茶道具みたいに多くの人の手を経てきたかと思うと、 意外とそうでもないんです。 2000年、あるいは5000年以上 地中に埋もれていた場合がほとんどなんですよ。 それが発掘されて市場に出て、 そうすると評価をするのは我々現代に生きている人間になる。 それが僕にとってはおもしろい。 |
加茂 | かつてどんな感じで作られ、 使われていたかわからないものが出土した時、 今生きている人間が価値を決められるということですか。 |
浦上 | そういうことです。 茶道具屋さんにも良い人がたくさんいるので 悪く言うわけじゃないですが、 時としてこれはこういう箱書きがある、 こういう伝来があるんだから、すごいんですという。 僕はそういうのがあまり好きではないんです。 本当にその人がその茶道具を好きなのであれば 話は変わってくるんですが。 |
浦上 | 茶道具の話を続けると、お茶会に行った時、 何が出てもお茶人の中で恥をかかないで その場をうまく取り繕う無難な言葉があるんです。 それは「結構でございます」。 何が出ても 「あぁ、結構でございます、結構でございます」と。 |
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加茂 | どっかのセミナーで「勉強になりました」と 一言だけ言って帰るような人みたいですね。 誰も不快にさせずに立ち去れる言葉というか。 |
浦上 | 「ひょっとしたらあの人は すごくわかっている人じゃなかったか」 と思わせたい感じもあって。 格好付けてるだけだから結局つまらないですよ。 何が結構だか言ってほしいですね。 こういうことがあるんですね。 例えば今ここに商品が並んでいますけど、 お店に入ってくるなりいきなり 「すごい!これいいですねー!」 なんて言う人がいるんです。 僕はそういう人好きなんですよ。 「私も好きだからここにあるんですよね」とか言って 手放しで仲良くなったりするんですが、 一方でお店に入ってくるなり 「この店で一番高いのはどれだ」って言う人もいて。 |
加茂 | そういう人、本当にいるんですか(笑) |
浦上 | ずいぶん俗っぽいのが来たなぁと思っていたら、 結構偉い人だったんですけどね。 で、一応「これです」と示したら 「あ、やっぱりこれは良いね」なんて言って 「嫌なやつだなこいつは」ってなって。 |
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加茂 | (笑) |
浦上 | そういうのもあるんですよ。 人間ってやっぱり価格が高いと 「これは良いんじゃないか」ってなるでしょう。 |
加茂 | そうですね。 でも値段に関係なく自分が欲しいモノに 急に目がいく時もあります。 たぶん目に入った瞬間に「これいい!」ってなる人は、 やっぱり良いものを買って帰られるんじゃないですか。 |
浦上 | 実際そうなんですよ。 さっき言った直感っていうことだと、 子供は好き嫌いをはっきり言うじゃないですか。 それと同じように思ったことを ストレートに言えるのは素晴らしいことなんです。 でも、そう言える人はなかなかいなくて。 人はどう見るだろうかとか、 あの人が良いと言ったら褒めようとか(笑)。 買う時だってそうですよ。 あの人が良いと言って、 「君、これ安いよ。良いものだから買いなさい」 ってなったら、 誰だって後押しされたら欲しくなるものです。 でも、やっぱり最後に決めるのは自分ですよね。 (つづきます!) |