加茂 | 浦上さんは長い時間をかけて 集められているものが多いようですが、 その中で一番長いスパンで集めているのが 北斎漫画なんですか。 |
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浦上 | 北斎漫画のコレクションは、 僕の生業を立てているものとはちょっと違いますね。 それこそ趣味ですかといわれると 趣味という言葉は軽すぎるから、 情熱という言葉が一番合うかもしれません。 北斎漫画は初編から15編まであって、 僕は約1500冊持っていますから、 単純計算だと1編につき100冊ずつ持っているわけです。 だけど、ただ数を集めたいわけじゃなくて、 より早い刷りで、よりいい状態のものを追いかけていたら 今のようなことになってしまったんです。 「なぜ1500册も」と 聞かれることはあるんですが、飽きないんですね。 北斎漫画は美術品でありながら当時の出版文化でもある。 北斎が一番みんなに見せたかったものを 追い求めているうちにこんな数になっちゃいました。 そういう意味ではこの店に並んでいるものは 逆に1点ものだからまたちょっと違うんだけど、 感動を与えてくれて、飽きないという意味では まったく一緒ですよ。 |
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加茂 | 北斎漫画は、先日リリースされた iPhoneアプリで拝見させていただいたんですが、 人が生き生きとしているところが好きなんです。 |
浦上 | そこなんです。 そこを感じ取っていただいたら最高です。 |
加茂 | 妖怪とかも、コミカルな感じというか、 当時生きていたんじゃないかっていうくらい 身近な感じがして。 人と一緒に生活をしていたんじゃないかと感じたんです。 そのあたりがすごいなと思いました。 |
浦上 | 今で言うと水木しげるさんも 北斎漫画にすごく影響されているんですよね。 今おっしゃったように江戸時代は今よりもっとこう、 妖怪が隣にいたかもしれないと思うんです。 で、今の人にもそういう憧れがどこかにあるから、 妖怪ブームもずっと続いているんだと思います。 |
加茂 | それだけ影響を与えている北斎漫画を、 今回iPhoneアプリで配信しようと思った きっかけはなんだったんですか。 |
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浦上 | なぜ作ったかというと、見るとしたら そりゃあ本物が良いに決まっているんですが、 あれだけ精度の良いアプリを作ると、 見た人が「北斎ってなに?」「北斎漫画ってなに?」となる。 そして、先ほどお話ししたイベントと同じ感じで、 100人が見たら10人くらいの人が 「1回本物も見てみたいね」とか、 あるいは「他にもっとないのかな」と、 北斎漫画に対して興味を持ってくれると。 そうすると、北斎漫画を通じて、江戸に興味を持つ。 で、江戸について調べてみたら 人間ってちっとも変わってないなと思う人もいるし、 全然今の日本人と違うなと思う人もいるかもしれない。 なので、このiPhoneアプリは 展覧会と同じく良いものを発信し、 誰かにとってのきっかけを作ることが目的なんですよ。 そうすると、必ずいい受け手が現れてくると思うんです。 |
加茂 | 実際に自分もこのアプリを見てすごい興味を持って、 北斎漫画についてかなり調べたんです。 そうしたら、北斎漫画の漫画というのは 「漫然と描いた絵」だってことを 初めて知ることが出来ておもしろかったです。 漫画って、どうしてもコマ割りしてて、ストーリーがあって、 というものしか想像できなかったので。 |
浦上 | 今の漫画の語源になっているところはあるんですが、 北斎漫画が初めて漫画って言葉を使ったわけじゃなく、 漫画という言葉はその当時すでにあったんです。 ただ、北斎自身が北斎漫画と命名したことは間違いないです。 で、北斎漫画は実は65年かけて出た 超ロングセラーなんですね。 そして、超ベストセラーでもあると。 なので、人々の印象にものすごく残って、 現在の漫画の語源になっただろうってことが 想像できると思うんです。 |
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加茂 | なるほど。ちなみに北斎漫画は いろんな地方に散らばったという話を見たんですが、 実際にそうだったんですか。 |
浦上 | 浮世絵もそうなんですが、 江戸土産でもあったし、日本中に渡りましたね。 参勤交代の帰りに みんな北斎漫画や浮世絵を持って帰ったんです。 そして地方の人が読んだ時に 「江戸っていうのはこういう所なんだな」となると。 北斎の作品は文化を伝播させる ツールだったんでしょうね。 |
加茂 | 参勤交代のときに伝わったというのは 考えたことがなかったのでおもしろいです。 (つづきます!) |