フダンヅカイ
浦上満さんプロフィール
もくじ
はじめに 農家とプロデューサー
第一回 日本橋は古美術商のメッカ
第二回 ニセモノは売る人も悪いが、買う人もある程度悪い
第三回 自分が持つよりふさわしい人に売る
第四回 みんな、自分の好きなモノにお金を使えていない
第五回 古美術品は「買う才能」がある
第六回 100人来たら2、3人は興味を持ってくれる
第七回 数字とは少し離れた世界
第八回 北斎漫画にまつわるあれこれ(日本編)
第九回 北斎漫画にまつわるあれこれ(海外編)
第十回 儲ける以上に大切なこと

第七回 数字とは少し離れた世界

加茂 美術というのは数とは少し離れた世界ですよね。

例えば「2千年前の中国の陶器」と限定すると、
すでに作られた数が決まっているじゃないですか。
出土されていてわかっているものが2万点しかないとしたら、
世の中にはそれだけしか取引できるものがないと。
そういう少ない数字で成り立っている世界だと思うんですが。
浦上 今2万点ってすごいおもしろいことを言われたんですが、
実はそんなにないんですよ。
古いだけのもの全体で言えば
もちろんそれより多いんですが、
要するに僕らはものすごく貴重なものを扱っているんです。

そして、扱うものは
もちろん本物であることは当然なんですが、
本物であるだけじゃダメなんです。
魅力のある本物でなければならない。
加えて、いろんな意味で状態も含めて
良いモノというのは本当にないんですよ。
そして、ない割にはそんなに売れないんです。
なぜかというと買う人が少ないので。
だから僕らも「これ買ってくださいよ」と言わないのは、
そんなことで買うような人はいないからなんです。

ただ、お客さんの方から
勉強したりわかってきたりした上でご来店いただいたら
「こんなすごい世界がまだ残っていた」
とわかる人が何人もいらっしゃるんです。
そして、うちはそういうお客さんが多いんです。
若い、といっても40代くらいの方が多いんですけど、
「自分たちの小遣いで買えて世界的なものは
このジャンルにしか残っていません」
とはっきりとおっしゃる方は何人かいますね。

で、その人たちは筋金入りのコレクターなんです。
そんな人たちが「これは世界的であり、すごいです」と。
別に投機が目的で言っているわけではなく、
貴重なものを自分が持てることの
すごさについて話されるんです。
僕はそんな話を聞きながら「なるほどそうですね」と、
売る立場の人間なのに感心したりするんですけどね。
加茂 「私はこんなすごい仕事をしてたんだ」と。
浦上 そこまではないですが(笑)
僕らが言ったらただの広告宣伝になってしまうんですが、
お客さんがそう言ってくれるわけです。
考えたらたしかにそうなんです。不思議なものですよ。
浦上 あるときうちの店で扱っているモノの価値を
一般の人がしっかりと理解してくれて、
ある日僕が店に来たら、
うちの前に200メートルくらい列が出来てて
「なんですか?」と聞いた時に
「お宅で何か買いたい」となったら、
そのときは「やった!」と思うかもわからないけど、
まぁ20~30人くらいに売ったら
商品は全てなくなりますから(笑)
でも、この次私自身が買うときは人気が出ているわけだから
当然値段も上がるし、仕入れも難しくなる。
そういうものなんですよモノっていうのは。

まぁ、今のは極端な話で、
もちろん僕らもストックがあるから20~30点売れたところで
商品がなくなるというわけじゃもちろんないんですが。
要するに限られた品物が回っている世界なんですよ。
加茂 すでに世の中にあるモノの数は決まっているのに、
常に新しい値段が付いて
回り続けているのはおもしろいですね。
浦上 そして、その間に必ず新発見があります。
新しく出てくるだけでなく、価値の新発見もあるんです。
古美術の世界も流行り廃りがあるから、
「今、これ値打ちなのにすごい安いよね」って分野もあって。
僕は意外とそういうのが好きで、
いいのに認められないものに光を当てるのが結構好きなんです。

その代わり時間はかかりますよ。
20年くらい集めているものがあるとしたら、
その間「あんた馬鹿じゃないの」って言われたりして。
で、20年後に「あんたすごいところに目をつけたね」
なんて言われるわけです。

その時ってね、実は楽しいんです。
ひそかに「今にみんな気が付くよ」って(笑)
加茂 「今に見てろよ」
とまではいかないとは思いますが、そんな感じだと。
浦上 「見てろよ」というのはありますが、
当然それはモノに対する
投機的な発想だとダメなんです。愛情ですよ。
もっと言えば、僕が死んでしばらくしてから
「あれは良かったね」って言われても、
それはそれでしょうがないんです。
それくらい腹をくくらないと集められませんよ。
加茂 下手すると西暦4000年くらいに
浦上さんがコレクションしたモノの
人気が出るかもしれないと。
浦上 そうそうそう(笑)
化けて出てきたみたいな感じで。
加茂 「これは浦上って男が見つけたやつだったのか」と

(つづきます!)
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