加茂 | 北斎漫画は海外の画家にも 多くの影響を与えたそうですね。 |
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浦上 | 北斎漫画は海外における ジャポニズムの扉を開いたというか、 北斎漫画が先に行ったがために、 後に行った浮世絵については 「とんでもなくすごい美術品がやってくる」という 受け入れ体制ができていたと言われていますね。 なぜかというと、それだけ北斎漫画が すばらしい筆致と構図で描かれ、 イマジネーションに溢れていたからなんです。 それはただの異国趣味ではなく、 彼らの心を捕まえたんでしょうね。 |
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加茂 | 北斎漫画を見ていると、人を完璧に描くというよりは デフォルメしているような感じで描かれているなと思ったので、 海外の人たちにとっては驚きだったんでしょうね。 |
浦上 | デフォルメなんだけど、 実はかなり北斎はうそを描いているんです。 だけども、本当より本当に見えるんです。 これは彼のマジシャン的なところでね。 冨嶽三十六景だって、 あんな大波が海の真ん中じゃ起きないんです。 あれはサーファーに聞けば もっと波打ち際で起きる波なんだとわかるんだけど、 非常にドラマティックに描くんですよ。 5000分の1秒のシャッタースピードだって よく言われているんですけどね。 もう本当にピシッ!と捉えたものを描いているんです。 |
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加茂 | 浦上さんは北斎漫画の そういったところに魅力を感じて 国内、海外を問わず探して 集められていたと思うんですけど、 海外にあった北斎漫画は 保存状態が良いものが多かったんですか。 |
浦上 | そうです。北斎漫画は彼らにとってお宝だったので。 日本でも大名とかがコレクションしてて、 すごく大事にされていたものも多かったんですが、 貸本屋でもずいぶん貸し出されたんです。 文化年間当時に江戸だけで 650軒貸本屋があったといわれているんです。 そうすると、貸本屋で回ったやつは痛むし、 落書きがあるものもあるし、 保存状態を見てずいぶんがっかりしたことがありました。 |
加茂 | 当時の日本では相当読まれていたと同時に、 適当に扱われていたというのもあるんでしょうね。 |
浦上 | 海外に最初に渡った時は陶磁器の包み紙だったという 有名な話があるんですね。 で、それを向こうの版画家が見つけてびっくりして 「これはなんだ!」ってなって。 「これちょうだい」って言ったら、 その人があまりにびっくりしたので 持っていた人が「嫌だ」って言ったという話があって。 それから2年後にまた他のルートから 北斎漫画をやっと手に入れて、みんなに見せ歩いたと。 その見せ歩いた相手が マネであり、モネであり、ドガであったと。 |
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加茂 | そういった不思議な縁で、世界的に有名な画家に 影響を与えたというのはおもしろいですね。 |
浦上 | 思わぬ形ですよね。 元々、北斎漫画は絵手本と言って、 全国にいる北斎の弟子に向けて描いたものだったらしいんだけど、 いまやマネが模写してるし、ドガもそうだし、 最近分かったんですが、パウルクレーまで 北斎漫画に影響を受けています。 ということは、世界中の有名な画家の絵手本にも なったのではないかなという気すら僕はしているんです。 |
加茂 | そして今、世界の画家に影響を与えた 北斎漫画が改めてiPhoneアプリで 見られるようになったというのはすごく興味深いです。 こうやって携帯できる画面で見られるようになるのは、 それこそ昔のように、 壷をくるんでいた紙がすごいアートだった、 みたいな出会いが起きそうで。 |
浦上 | まさにそうです。 |
浦上 | 僕がなぜいろんな人に見て欲しいのかというと、 北斎漫画は当時の庶民にとっても 身近なものだったんですよ。 日本は木版技術がすごく発達して、 貸本屋で借りて見た庶民もいるでしょうし、 大名から庶民まで楽しむことができたわけです。 外国にもいろんなアートがあったんだけど、 ほとんどが王侯貴族や富裕層のためのものだったんです。 そういう意味では、ヒカリエで開催した 北斎漫画の展覧会も同じことです。 いろんな人に見てもらって、 1割ってことはないと思うけど、 見た人の3割、4割は「いやぁ、面白かったね」と、 そのうちのまた10分の1くらいは 「とんでもなくおもしろかったね」という人が出てくると、 広がりますからね。 なので、当時の日本の版画と同じ事をこのiPhoneアプリで やってるんじゃないかなという気がしますね。 |
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加茂 | 新しい印刷技術が開発されたような感じですね。 このiPhoneアプリを通じて世界中に北斎漫画が広がって、 面白いと思う人が出てきたらと思うと楽しくなってきます。 |
浦上 | そうですね。 ただ、北斎漫画っていうとつい僕も ジャポニズムだのマネだのと言っちゃうんだけど、 去年の今頃、パリに行ってきたんですよ。 パリでフランス語の北斎漫画の本が出たので、 小さな出版記念会をやったんです。 そうしたら、ジャーナリストが多かったんですけど すごい反響なんですよ。で、彼らに 「150年前のパリの人もこれを一目見て認めてくれたんですよ」 と伝えたら、ポカーンとしていたんです。 要するに、彼らはそんなことは知らなかったんです。 彼らはマネやモネやドガやピカソが良いと言ったから 感動していたわけではなく、 当時初めて見た人たちと同じく、作品自体に反応したわけです。 あれはかえって嬉しかったですね。 (つづきます!) |