加茂 | 今日はよろしくお願いします。 この浦上蒼穹堂はすでに30年以上経営されている… ギャラリーといえばいいんでしょうか。 |
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浦上 | ギャラリーは絵画の場合が多いので、 我々は古美術店、美術店というのかな。 でもギャラリーと言うこともありますね。 |
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加茂 | では今日は「お店」と呼ばせていただきます。 今日ここまで向かう途中に 多くの古美術商を見かけたんですが、 浦上さんがこのお店を始められる時、 周りに他の古美術商はあったんですか。 |
浦上 | もちろん。ここ日本橋は明治、大正くらいから 日本の骨董屋さんというか、古美術商のメッカですから。 僕は繭山龍泉堂という老舗で 5年間修行したのちに独立したんですが、 当時このお店が入っているビルは建ってなくて、 ここのすぐそばで6年くらい営業していました。 その後このビルに移転したんです。 本当は1階が良かったんだけど、結果として3階になりました。 でもこれくらいのスペースだと3階の方が落ち着くんですよ。 |
加茂 | たしかにこの階だと落ち着いて見ることができますね。 1階だとお店の前を通る人の目が気になりそうですし。 浦上さんは独立される時、この日本橋にお店を出すことは 最初から考えられていたんですか。 |
浦上 | そうですね。僕が修行した繭山龍泉堂は 大きな自前のビルを持っているところなんですけど、 基本的に美術商というのは、 大手といっても規模が小さいんです。 要するにインディビジュアルな商売なんですよ。 繭山龍泉堂も私がいたころは 男性だけでも10数名いたんですけど、 1人1人がなんとか商店、なんとか商店、と お店を持っているようなものなんです。 普通の会社のように仕入れ部があって、 販売部があるというよりは、 1人の人が買ってきて、自分のお客さんに売る、 という傾向が強いですね。 |
加茂 | ある意味で社員1人1人が独立していて、 自分たちが集めてきたものをお客さんに売ると。 |
浦上 | そうです。 なので、少しご質問の主旨と回答がずれてしまったんですが、 やはりこの辺りでお店を出す、というのは考えていましたね。 ただ当時はバブル前だったので 空き室というか、店舗に使えるスペースというのは 非常に少なくて苦労したのを覚えています。 |
加茂 | 最初に激戦区にお店を出すというのは、 かなり大きな挑戦というイメージがあるんですが。 |
浦上 | 僕は幸い国宝や重要文化財も扱ったことのある 本当に良いお店で5年間修行させてもらったから、 非常に良いものをたくさん見て育ったんです。 なので、もちろん不安はありましたが 「お店をやるのはここだな」という気でいましたね。 |
浦上 | 骨董品は蕎麦猪口(そばちょこ)ぐらいから 入らなきゃダメだなんて人もいるんだけど、 大事なのは蕎麦猪口の次はこれ、次はこれと ステップアップして一番すごいところにいくことじゃないんです。 やっぱり良いところから入れたら入るのに越したことはない。 で、勘違いをしてはいけないんですがそうしたら 一生蕎麦猪口と縁がないかというとそうではなくて、 ちゃんと良い蕎麦猪口も選べるんです。偉そうな意味ではなく。 なので僕が言いたいのは、 例えば場末から始めて最後の方で日本橋まで来たらあがり、 みたいなことではないんです。 激戦区じゃないところから入る意味は何もないですよね。 「この辺はほかに同業者がいないから始めましょう」 って言ったら誰も来ないですよ。 この日本橋~京橋という場所にお店を出すからこそ 「おお、新しい店ができたな」と入ってみたら 「ああ、このお店を出したのはあなたでしたか」となる。 |
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加茂 | たしかにおっしゃる通りですね。 ちなみに、厳しいお客さんのいる地域に お店を出す決断ができた理由としては、 今おっしゃられていた良いお店で 修行したこともあると思うんですが、 浦上さんのお父さんがコレクターだったことも 影響しているんですか。 |
浦上 | それもあるでしょうね。 父親がコレクターだったことの良さは、 小さい頃から良いものを見られた、 ということなんです。 修業時代、僕と同期でもう一人 繭山龍泉堂に入った人がいたんですが、 彼は普通の家庭で生まれ育ったので、 一切美術品と縁がなかった。 なので入った当初は本当にもう、 右も左もわからない状態でした。 僕ももちろんわからないことだらけだったけど、 親父がコレクターだったから、 モノには接していたのでスッとこの世界に入れました。 当時のことを考えると、小さいころにモノを見ることに 親しんでいたことは大きかったですね。 同期の彼も、その後大変目が利く人になるんですけど。 |
加茂 | 美術品を売る時に難しそうだなと思うのが、 自分が良いと思って仕入れるものと、 お客さんが「これが欲しい」と思うものを うまくマッチングさせることで。 お客さんが見つけてくれるまでも 結構大変な作業があるんじゃないかな、 と思うときがあるんですが。 |
浦上 | おっしゃるとおりでいいところを突かれたんですけど、 美術品というのはものすごく多岐にわたるんです。 僕の専門は鑑賞陶器とか、鑑賞陶磁と言われる分野です。 これはファインアートを訳したというか、 あまり馴染みのない言葉で、要するに見て美しいとか、 力強いやきもの...というんでしょうか。 それに比べてわかりやすいのは茶道具とか、仏教美術とか。 これはかなりクリアに分かる分野です。 なので古美術と一言で言ってもたくさんの分野があって、 「何でも分かりますよ」と言う骨董品屋さんや古美術商がいたら 「あ、この人はきっと何も分からないんだな」 ということに通じるんです。それくらい専門が分かれている。 |
浦上 | なので、先ほどいただいたご質問への回答としては、 実はお客さんに合わせるとダメなんです。 目の高いお客さんに合わせることは大事なんですが、 ちょっと生意気な言い方だけど、 自分の好みが好きなお客さんが集まってくるのがベストです。 自分ももちろん目を鍛えていろいろと勉強して、 自分の専門、ラインをしっかりと持つ。 そうすると「あ、あそこは良いものがあるな」 「自分好みのモノがあるな」と徐々に人が来てくれて、 非常に目の高い人たちが 「いやぁ、君は若いけど良いものを扱うね」と、 実際に口には出されないですが、 そういう反応をいただけるようになります。 |
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加茂 | たぶん「君のはいいね」というのは、 お客さんがもう一度来てくれることなんでしょうね。 |
浦上 | そう。あとは実際に商品を買っていただくことですね。 (つづきます!) |