加茂 | 美術というのは数とは少し離れた世界ですよね。 例えば「2千年前の中国の陶器」と限定すると、 すでに作られた数が決まっているじゃないですか。 出土されていてわかっているものが2万点しかないとしたら、 世の中にはそれだけしか取引できるものがないと。 そういう少ない数字で成り立っている世界だと思うんですが。 |
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浦上 | 今2万点ってすごいおもしろいことを言われたんですが、 実はそんなにないんですよ。 古いだけのもの全体で言えば もちろんそれより多いんですが、 要するに僕らはものすごく貴重なものを扱っているんです。 そして、扱うものは もちろん本物であることは当然なんですが、 本物であるだけじゃダメなんです。 魅力のある本物でなければならない。 加えて、いろんな意味で状態も含めて 良いモノというのは本当にないんですよ。 そして、ない割にはそんなに売れないんです。 なぜかというと買う人が少ないので。 だから僕らも「これ買ってくださいよ」と言わないのは、 そんなことで買うような人はいないからなんです。 ただ、お客さんの方から 勉強したりわかってきたりした上でご来店いただいたら 「こんなすごい世界がまだ残っていた」 とわかる人が何人もいらっしゃるんです。 そして、うちはそういうお客さんが多いんです。 若い、といっても40代くらいの方が多いんですけど、 「自分たちの小遣いで買えて世界的なものは このジャンルにしか残っていません」 とはっきりとおっしゃる方は何人かいますね。 で、その人たちは筋金入りのコレクターなんです。 そんな人たちが「これは世界的であり、すごいです」と。 別に投機が目的で言っているわけではなく、 貴重なものを自分が持てることの すごさについて話されるんです。 僕はそんな話を聞きながら「なるほどそうですね」と、 売る立場の人間なのに感心したりするんですけどね。 |
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加茂 | 「私はこんなすごい仕事をしてたんだ」と。 |
浦上 | そこまではないですが(笑) 僕らが言ったらただの広告宣伝になってしまうんですが、 お客さんがそう言ってくれるわけです。 考えたらたしかにそうなんです。不思議なものですよ。 |
浦上 | あるときうちの店で扱っているモノの価値を 一般の人がしっかりと理解してくれて、 ある日僕が店に来たら、 うちの前に200メートルくらい列が出来てて 「なんですか?」と聞いた時に 「お宅で何か買いたい」となったら、 そのときは「やった!」と思うかもわからないけど、 まぁ20~30人くらいに売ったら 商品は全てなくなりますから(笑) でも、この次私自身が買うときは人気が出ているわけだから 当然値段も上がるし、仕入れも難しくなる。 そういうものなんですよモノっていうのは。 まぁ、今のは極端な話で、 もちろん僕らもストックがあるから20~30点売れたところで 商品がなくなるというわけじゃもちろんないんですが。 要するに限られた品物が回っている世界なんですよ。 |
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加茂 | すでに世の中にあるモノの数は決まっているのに、 常に新しい値段が付いて 回り続けているのはおもしろいですね。 |
浦上 | そして、その間に必ず新発見があります。 新しく出てくるだけでなく、価値の新発見もあるんです。 古美術の世界も流行り廃りがあるから、 「今、これ値打ちなのにすごい安いよね」って分野もあって。 僕は意外とそういうのが好きで、 いいのに認められないものに光を当てるのが結構好きなんです。 その代わり時間はかかりますよ。 20年くらい集めているものがあるとしたら、 その間「あんた馬鹿じゃないの」って言われたりして。 で、20年後に「あんたすごいところに目をつけたね」 なんて言われるわけです。 その時ってね、実は楽しいんです。 ひそかに「今にみんな気が付くよ」って(笑) |
加茂 | 「今に見てろよ」 とまではいかないとは思いますが、そんな感じだと。 |
浦上 | 「見てろよ」というのはありますが、 当然それはモノに対する 投機的な発想だとダメなんです。愛情ですよ。 もっと言えば、僕が死んでしばらくしてから 「あれは良かったね」って言われても、 それはそれでしょうがないんです。 それくらい腹をくくらないと集められませんよ。 |
加茂 | 下手すると西暦4000年くらいに 浦上さんがコレクションしたモノの 人気が出るかもしれないと。 |
浦上 | そうそうそう(笑) 化けて出てきたみたいな感じで。 |
加茂 | 「これは浦上って男が見つけたやつだったのか」と (つづきます!) |
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