フダンヅカイ
浦上満さんプロフィール
もくじ
はじめに 農家とプロデューサー
第一回 日本橋は古美術商のメッカ
第二回 ニセモノは売る人も悪いが、買う人もある程度悪い
第三回 自分が持つよりふさわしい人に売る
第四回 みんな、自分の好きなモノにお金を使えていない
第五回 古美術品は「買う才能」がある
第六回 100人来たら2、3人は興味を持ってくれる
第七回 数字とは少し離れた世界
第八回 北斎漫画にまつわるあれこれ(日本編)
第九回 北斎漫画にまつわるあれこれ(海外編)
第十回 儲ける以上に大切なこと

第八回 北斎漫画にまつわるあれこれ(日本編)

加茂 浦上さんは長い時間をかけて
集められているものが多いようですが、
その中で一番長いスパンで集めているのが
北斎漫画なんですか。
浦上 北斎漫画のコレクションは、
僕の生業を立てているものとはちょっと違いますね。
それこそ趣味ですかといわれると
趣味という言葉は軽すぎるから、
情熱という言葉が一番合うかもしれません。

北斎漫画は初編から15編まであって、
僕は約1500冊持っていますから、
単純計算だと1編につき100冊ずつ持っているわけです。
だけど、ただ数を集めたいわけじゃなくて、
より早い刷りで、よりいい状態のものを追いかけていたら
今のようなことになってしまったんです。

「なぜ1500册も」と
聞かれることはあるんですが、飽きないんですね。
北斎漫画は美術品でありながら当時の出版文化でもある。
北斎が一番みんなに見せたかったものを
追い求めているうちにこんな数になっちゃいました。
そういう意味ではこの店に並んでいるものは
逆に1点ものだからまたちょっと違うんだけど、
感動を与えてくれて、飽きないという意味では
まったく一緒ですよ。
加茂 北斎漫画は、先日リリースされた
iPhoneアプリで拝見させていただいたんですが、
人が生き生きとしているところが好きなんです。
浦上 そこなんです。
そこを感じ取っていただいたら最高です。
加茂 妖怪とかも、コミカルな感じというか、
当時生きていたんじゃないかっていうくらい
身近な感じがして。
人と一緒に生活をしていたんじゃないかと感じたんです。
そのあたりがすごいなと思いました。
浦上 今で言うと水木しげるさんも
北斎漫画にすごく影響されているんですよね。
今おっしゃったように江戸時代は今よりもっとこう、
妖怪が隣にいたかもしれないと思うんです。
で、今の人にもそういう憧れがどこかにあるから、
妖怪ブームもずっと続いているんだと思います。
加茂 それだけ影響を与えている北斎漫画を、
今回iPhoneアプリで配信しようと思った
きっかけはなんだったんですか。
浦上 なぜ作ったかというと、見るとしたら
そりゃあ本物が良いに決まっているんですが、
あれだけ精度の良いアプリを作ると、
見た人が「北斎ってなに?」「北斎漫画ってなに?」となる。
そして、先ほどお話ししたイベントと同じ感じで、
100人が見たら10人くらいの人が
「1回本物も見てみたいね」とか、
あるいは「他にもっとないのかな」と、
北斎漫画に対して興味を持ってくれると。

そうすると、北斎漫画を通じて、江戸に興味を持つ。
で、江戸について調べてみたら
人間ってちっとも変わってないなと思う人もいるし、
全然今の日本人と違うなと思う人もいるかもしれない。
なので、このiPhoneアプリは
展覧会と同じく良いものを発信し、
誰かにとってのきっかけを作ることが目的なんですよ。
そうすると、必ずいい受け手が現れてくると思うんです。
加茂 実際に自分もこのアプリを見てすごい興味を持って、
北斎漫画についてかなり調べたんです。
そうしたら、北斎漫画の漫画というのは
「漫然と描いた絵」だってことを
初めて知ることが出来ておもしろかったです。
漫画って、どうしてもコマ割りしてて、ストーリーがあって、
というものしか想像できなかったので。
浦上 今の漫画の語源になっているところはあるんですが、
北斎漫画が初めて漫画って言葉を使ったわけじゃなく、
漫画という言葉はその当時すでにあったんです。
ただ、北斎自身が北斎漫画と命名したことは間違いないです。

で、北斎漫画は実は65年かけて出た
超ロングセラーなんですね。
そして、超ベストセラーでもあると。
なので、人々の印象にものすごく残って、
現在の漫画の語源になっただろうってことが
想像できると思うんです。
加茂 なるほど。ちなみに北斎漫画は
いろんな地方に散らばったという話を見たんですが、
実際にそうだったんですか。
浦上 浮世絵もそうなんですが、
江戸土産でもあったし、日本中に渡りましたね。

参勤交代の帰りに
みんな北斎漫画や浮世絵を持って帰ったんです。
そして地方の人が読んだ時に
「江戸っていうのはこういう所なんだな」となると。
北斎の作品は文化を伝播させる
ツールだったんでしょうね。
加茂 参勤交代のときに伝わったというのは
考えたことがなかったのでおもしろいです。

(つづきます!)
まえへ 最新の更新へ つぎへ