フダンヅカイ
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もくじ
はじめに 元気のもと
第1回 量が質を生む
第2回 なんでこれをやろうと思ったの?
第3回 日本で閉じている必要がない
第4回 私がいちばん楽しんでる
第5回 クリエイティブ・コモンズ
第6回 イノベーションをどう作っていくか
第7回 早く利益を出さなきゃいけない
第8回 結びついた時のワクワク度

第5回 クリエイティブ・コモンズ

クリエイティブ・コモンズとか、
価値観の本を書きたいなって
実は6年くらい前から思っていて。
加茂 かなり前ですね。
そう。で、書きたいと思った当時、
よく記事を一緒に書いてくれている人に伝えた時に、
「それはちょっと難しくって無理ですよ」って言われてたの。
それでもなぜ本を書こうかと思ったかというと、
私ね、ボランティアとかメセナとかが苦手なのね。
なんでかっていうと、
自分がそういう言葉に流されやすい人間なの。
だけど、本当の意味での「人のため」っていうものが、
どれだけNPOとかボランティアの活動で
実現できているんだろうと思った時に、
その実情にがっかりすることが多かった。
人のためのような形でいながら、
自分のトラウマというか、
コンプレックスを乗り越えようとするための
ボランティア活動だったり、
NPOで、弱者を守るというような形でありながら、
実はお金を集める仕組みになっていたりとか。

全部のNPOがそうだというわけじゃないんだけど、
メセナもそうだけどお金があるときはやるけど、
不況になったらやめてしまう。
なんかそういうもの全部がすごく引っかかっていて、
だけどそういうのが好きな自分もあって。
だから、心から賛同できないものはやめようと思って、
すごく距離を置いていたんです。

で、米国を中心としたNPOである
クリエイティブ・コモンズに会った時に初めて
「ああ、これは社会のために、人のためにというのが
きれいごとではなく実現できているな」って思ったの。
クリエイティブ・コモンズは、
例えば誰かが著作物をコモンズ(公のもの)にしたとして、
それを使った人から御礼をもらえるんじゃないの。
なぜなら「コモンズがあってよかったね」って言うのは、
使った人ではなくて全く違う誰かだから。

例えば、私がクリエイターだとして、
写真をクリエイティブ・コモンズで出す。
それを加茂さんがフダンヅカイで使ったりするかもしれない。
でも私は、加茂さんから
何かを得ることを求めているわけではない。
その一方で、私自身はWikipediaから
コモンズの恩恵を得たりする。

対価をもとめてシェアをするのではなく、
はじめから生き方の中に必然的に、
「人のためのもの」も含まれていて、
かつ、人からシェアされるものも組み込まれている。
そういうサステイナブル(持続可能)で、無理がなくてっていう
クリエイティブ・コモンズのあり方が私は好きで、
そんな価値観の変化が起こっていることを
紹介しながら本を作りたいなって思っていた。

当時はそんな本を出版するのは
無理だって言われていたんだけど、
今は結構そういう本が色々出てきていて、
だから改めて整理して
本を書いてみたいな、って思うんだよね。
加茂 聞いていると、
公私混同みたいな感じがしますね。
僕はクリエイティブ・コモンズは
公と私が混ざっているイメージがあるんです。
公に出すけど、自分のアイデンティティも残っている。
おもしろいなって思ったのはそこなんです。

ただ、仕組みが未だに理解しきれていないところもあって、
このマークついていたらどこまで使っていいんだというのを
理解できる人は作り手にも受け手にもなかなかいなくて。
そこは広めている人たちも
ジレンマを抱えているんじゃないかなって思っています。

「私はこれこれこういう目的で
クリエイティブ・コモンズとして作品を公開したいんだけど、
どのマークをつけたらいいんですか」
って質問はきたりしますか。
きますね。
どのライセンスでやるべきですかって質問はよくきます。
加茂 この前ドミニク・チェンさんが書いた
フリーカルチャーをつくるためのガイドブック
という本を読んだんですけど、
やっぱりあれを見てもどのライセンスだと
自分が理想としている形となるのかがわからなかったんです。
複雑なライセンスにするんだったら
始めからパブリックにしちゃえって感じになってしまう。

そのあたりって、クリエイティブ・コモンズの中の人たちも
いろいろと議論はしているんですか。
それはいつも議論しているんだよね。
やっぱり法律としての精度を高めようとするとより複雑になるし、
だけど分かりやすさを優先させると
もっと減らしたっていいんじゃないかってなって、
そのせめぎ合いで。

弁護士が作っている契約書に比べれば
ずっと分かりやすくなっているんだけど、
「ノンコマーシャル」っていう言葉がすごく抽象的で
世界中で解釈の違いを呼んでいて、
トラブルの原因になっているんです。
ただそれは今バージョン4.0っていう、
大きなバージョンアップによって
変えようとしているんですよ。
継続的にディスカッションもしているんだけどね。

でも、みんなが「これでいい」
っていうのにはなかなかならなくて。
パーフェクトじゃないけど、
ないよりはあったほうがいいよねっていう、
そんなスタンスでたぶんみんなやっていると思うんだけど。
加茂 クリエイティブ・コモンズって、悩みどころとして、
Flickrとかで見てもそうなんですけど、
「みんな使っていいよ」ってレベルのものになると、
上手く撮れなかったんじゃないかなっていう写真が
並んだりするんですよ。
あれがクリエイティブ・コモンズのイメージを
悪くしているんじゃないかなっていうのがあって、
すごく悩ましいんです。
(編集部注:オンライン写真共有サイトFlickrでは
 自分がアップした写真にクリエイティブ・コモンズの
 ライセンスを付与でき、ユーザーはそれを検索できる)

これからクリエイティブ・コモンズを普及させるには
「自由にこれを使っていいよ」と
ネットに公開されたものの中に、
使いたい、加工したいと思われるものが
どれだけアップされるかというのが
ポイントになってくると思うんですが。
そうだねえ。
クリエイティブ・コモンズは2007年から5年くらいやって、
いろいろ試みていたんだけど…いったん、一休み。
(編集部注:クリエイティブ・コモンズでは
 それまで務めていたアジア地域責任者を辞め、
 2012年からは文化担当として
 限定的なテーマに関わることに)

クリエイティブ・コモンズの
コンセプト自体は大好きなんだけど、
それを不特定多数のみんなに伝えていくための
労力とかってものすごいかかる。
それよりは、今、私の中でもっと具体的な、
手応えのある単位でやろうかなって。
加茂 走り続けて休憩みたいな感じなんですね。


(つづきます!)


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