林 | クリエイティブ・コモンズとか、 価値観の本を書きたいなって 実は6年くらい前から思っていて。 |
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加茂 | かなり前ですね。 |
林 | そう。で、書きたいと思った当時、 よく記事を一緒に書いてくれている人に伝えた時に、 「それはちょっと難しくって無理ですよ」って言われてたの。 |
林 | それでもなぜ本を書こうかと思ったかというと、 私ね、ボランティアとかメセナとかが苦手なのね。 なんでかっていうと、 自分がそういう言葉に流されやすい人間なの。 だけど、本当の意味での「人のため」っていうものが、 どれだけNPOとかボランティアの活動で 実現できているんだろうと思った時に、 その実情にがっかりすることが多かった。 人のためのような形でいながら、 自分のトラウマというか、 コンプレックスを乗り越えようとするための ボランティア活動だったり、 NPOで、弱者を守るというような形でありながら、 実はお金を集める仕組みになっていたりとか。 全部のNPOがそうだというわけじゃないんだけど、 メセナもそうだけどお金があるときはやるけど、 不況になったらやめてしまう。 なんかそういうもの全部がすごく引っかかっていて、 だけどそういうのが好きな自分もあって。 だから、心から賛同できないものはやめようと思って、 すごく距離を置いていたんです。 で、米国を中心としたNPOである クリエイティブ・コモンズに会った時に初めて 「ああ、これは社会のために、人のためにというのが きれいごとではなく実現できているな」って思ったの。 |
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林 | クリエイティブ・コモンズは、 例えば誰かが著作物をコモンズ(公のもの)にしたとして、 それを使った人から御礼をもらえるんじゃないの。 なぜなら「コモンズがあってよかったね」って言うのは、 使った人ではなくて全く違う誰かだから。 例えば、私がクリエイターだとして、 写真をクリエイティブ・コモンズで出す。 それを加茂さんがフダンヅカイで使ったりするかもしれない。 でも私は、加茂さんから 何かを得ることを求めているわけではない。 その一方で、私自身はWikipediaから コモンズの恩恵を得たりする。 対価をもとめてシェアをするのではなく、 はじめから生き方の中に必然的に、 「人のためのもの」も含まれていて、 かつ、人からシェアされるものも組み込まれている。 そういうサステイナブル(持続可能)で、無理がなくてっていう クリエイティブ・コモンズのあり方が私は好きで、 そんな価値観の変化が起こっていることを 紹介しながら本を作りたいなって思っていた。 当時はそんな本を出版するのは 無理だって言われていたんだけど、 今は結構そういう本が色々出てきていて、 だから改めて整理して 本を書いてみたいな、って思うんだよね。 |
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加茂 | 聞いていると、 公私混同みたいな感じがしますね。 僕はクリエイティブ・コモンズは 公と私が混ざっているイメージがあるんです。 公に出すけど、自分のアイデンティティも残っている。 おもしろいなって思ったのはそこなんです。 ただ、仕組みが未だに理解しきれていないところもあって、 このマークついていたらどこまで使っていいんだというのを 理解できる人は作り手にも受け手にもなかなかいなくて。 そこは広めている人たちも ジレンマを抱えているんじゃないかなって思っています。 「私はこれこれこういう目的で クリエイティブ・コモンズとして作品を公開したいんだけど、 どのマークをつけたらいいんですか」 って質問はきたりしますか。 |
林 | きますね。 どのライセンスでやるべきですかって質問はよくきます。 |
加茂 | この前ドミニク・チェンさんが書いた 「フリーカルチャーをつくるためのガイドブック」 という本を読んだんですけど、 やっぱりあれを見てもどのライセンスだと 自分が理想としている形となるのかがわからなかったんです。 複雑なライセンスにするんだったら 始めからパブリックにしちゃえって感じになってしまう。 そのあたりって、クリエイティブ・コモンズの中の人たちも いろいろと議論はしているんですか。 |
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林 | それはいつも議論しているんだよね。 やっぱり法律としての精度を高めようとするとより複雑になるし、 だけど分かりやすさを優先させると もっと減らしたっていいんじゃないかってなって、 そのせめぎ合いで。 弁護士が作っている契約書に比べれば ずっと分かりやすくなっているんだけど、 「ノンコマーシャル」っていう言葉がすごく抽象的で 世界中で解釈の違いを呼んでいて、 トラブルの原因になっているんです。 ただそれは今バージョン4.0っていう、 大きなバージョンアップによって 変えようとしているんですよ。 継続的にディスカッションもしているんだけどね。 でも、みんなが「これでいい」 っていうのにはなかなかならなくて。 パーフェクトじゃないけど、 ないよりはあったほうがいいよねっていう、 そんなスタンスでたぶんみんなやっていると思うんだけど。 |
加茂 | クリエイティブ・コモンズって、悩みどころとして、 Flickrとかで見てもそうなんですけど、 「みんな使っていいよ」ってレベルのものになると、 上手く撮れなかったんじゃないかなっていう写真が 並んだりするんですよ。 あれがクリエイティブ・コモンズのイメージを 悪くしているんじゃないかなっていうのがあって、 すごく悩ましいんです。 (編集部注:オンライン写真共有サイトFlickrでは 自分がアップした写真にクリエイティブ・コモンズの ライセンスを付与でき、ユーザーはそれを検索できる) これからクリエイティブ・コモンズを普及させるには 「自由にこれを使っていいよ」と ネットに公開されたものの中に、 使いたい、加工したいと思われるものが どれだけアップされるかというのが ポイントになってくると思うんですが。 |
林 | そうだねえ。 クリエイティブ・コモンズは2007年から5年くらいやって、 いろいろ試みていたんだけど…いったん、一休み。 (編集部注:クリエイティブ・コモンズでは それまで務めていたアジア地域責任者を辞め、 2012年からは文化担当として 限定的なテーマに関わることに) クリエイティブ・コモンズの コンセプト自体は大好きなんだけど、 それを不特定多数のみんなに伝えていくための 労力とかってものすごいかかる。 それよりは、今、私の中でもっと具体的な、 手応えのある単位でやろうかなって。 |
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加茂 | 走り続けて休憩みたいな感じなんですね。 (つづきます!) |