加茂 | 林さんのブログ、いつも拝見しているんですが、 この前クリエイティブ・コモンズのアジア責任者を降りた という話がありましたよね。 (編集部注:これまで務めていたアジア地域責任者を辞め、 2012年からは文化担当として 限定的なテーマに関わることになったという意味) ブログで辞めた経緯を拝見して、 常に答えの出ない課題に挑戦して、 どうすればいいのかを考え続けていて、 すごいなと思ったんです。 僕がやっているフダンヅカイは 答えは出なくていいんじゃないっていうのが コンセプトの1つにあって、でも考えることはやめないで… というのをやっていきたいんです。 なので、林さんの仕事に対する姿勢に すごく刺激を受けています。 |
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林 | フダンヅカイっていうものに 込められている思いはどういったものなんですか。 |
加茂 | いつもの言葉でいろんなことを説明できると思っているんです。 無理のない普段通りの言葉で話をしたら、 みんなと同じレベルで、同じテーマを 一緒に考えられるんじゃないかって思っていて。 |
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林 | なんでこれをやろうと思ったの。 |
加茂 | 単純に、ネットにあるメディアが つまらなかったからなんです。 伝わりすぎて本当のことがわかりづらくなっていたり、 煽りのタイトルをつけて読ませようとしていたり。 周りを見渡してみたらそんなメディアばかりだったので 「じゃあ逆のサイトもあっていいんじゃない」って思って。 あと、人の考えは常に変わるっていうのが僕の中の意見で、 昨日と今日で意見が違ったとしても、 それはそれそれでいいじゃんって場にしたいという 目標もあります。 それができるかもしれないと思ったのは、 このサイトの第一弾に出てくれた中村さんとおはなししたときで、 雑多と多様の違いについて話をしたんです。 そのとき僕は「雑多は空気感で、多様はデータなんじゃないか」 という意見を中村さんにぶつけたんです。 そうしたら中村さんは、 『砂鉄をぽーんとばらまいたら、 ばーっとなるじゃないですか。 それが雑多なんですよ。 で、そこに、S極とN極を近づけると地場が発生して、 何かしら、みんなちぐはぐの方向を向いているんだけど、 なんとなく方向づくというか。 その状態が多様だなと思っていて』 と返してきたんです。 正直、辞書を引けば終わりっていう話なんですけど、 これはおもしろくて、可能性を感じました。 |
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林 | なるほどね。雑多と多様ね。 かずえちゃんだったらどう? |
中田一会 (以下、中田) |
え、私ですか(笑)。 |
林 | どう思うかなって。彼女言葉のプロなので。 実は私、彼女と一緒に仕事をしていて、 私よりも私なんじゃないかって思って。 マスターオブ林(笑)。 |
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中田 | 社内でも、Siriと呼ばれています(笑)。 |
林 | 「私ってこの時嬉しかったかな?」って言った時、 「嬉しかったです!」って言うくらい(笑)。 私のオリジンがここにあったりして。 言葉の魔術師なので、どう思うかなって。 結構いい言葉だね。雑多と多様って。 私ね、雑多はね、1個ずつが周りを知らない状態、 多様は、バラバラなんだけど、 お互いが多様にあることを認識しあっている状態。 例えば渋谷だとさ、雑多じゃん。 こういう人もいる、ああいう人もいるって 意識していないでただただ複雑にある。 だから他の存在が意識されていない状態。 そして多様は瞬間的に 「ここからここの50人止まってください!」と集めて、 何に興味があるか、ああこういう人いるなとか、 お互いのことがある程度分かっている状態が多様な気がするなあ。 |
加茂 | 中田さんはどうでしょう。 |
中田 | そうですね。 多様だと1個1個の様相が違う。テクスチャーが違う。 別の方向に違うという、正しいかは別としてありますね。 で、雑多はその混ざり具合。 テクスチャーの問題じゃなくて、粒の大きさくらいの問題で、 揃ってないよねなんとなくっていう、神様の視点ですけど(笑)。 見える感じですかね。 多様は、見えざる力で全員が違う。 |
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林 | これくらい解釈が違って、 でも言わんとする事も分かる気がする。 |
加茂 | こんな感じで、フダンヅカイでは その人の普段言っている言葉が そのまま出せればいいなと思ってやっているんです。 どうしてもインタビューとかになると、 決まりきった感じのことをやってしまうことがあるので、 脱線したらそのままいっちゃって、 予定にないことも言ってしまってもいいや、 その中で上手く編集できればいいやっていう。 そうしたほうがその人が持っている 本当の言葉が出てくるんじゃないかなって。 決まりきった質問の答えって、変わらないですよ。 例えば林さんに「ロフトワークの歴史について教えてください」 という質問をしたら、必ず同じ答え方をすると思うんです。 なぜかというと、何度も言って覚えてしまっているからで。 |
林 | 私さ、それでいつも思うのが、車掌さん。 |
加茂 | あー(笑) |
林 | 車掌さんってさ、いつもさ、「次は渋谷~」って。 あれって日本全国どこに行っても駅名は違うけど、 言い方って全く一緒じゃん。 何回も何回も言った時に、 あのリズムが自然に生まれるんだと思うの。 で、それをね、もし私たちが車掌になって、 「ツギハー、シブヤ、シブヤ」って(笑) |
一同 | (笑) |
林 | そうやって言ったら、人は、ぎょぎょっとなる。 初めて「千晶さん、『次は神泉(しんせん)』って言って」 って言われて、アナウンスの仕方とかなにも知らずに、 「つぎはぁ~、しん、せん」って(笑)。 |
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一同 | (笑) |
林 | その、1回限り感と、繰り返し感って、 なんかトーンが変わるよね。 そうしたらフレッシュで、毎日みんなが、 いろんな人が言ったらどうなるんだろうって。 神泉で降りるときも、「ツギハァ、シンスェン」って 外人の人が言った時に、わお~、みたいに思いながら降りる、 そういうなんか、ナレーションについていつも考えるの。 あれ、フダンヅカイがハックしてみたら? |
加茂 | はは(笑)。 でもあのアナウンスって、 いつも同じ波長で来るのでBGMみたいになっちゃって、 普段電車に乗っている時には 意識して聞かないと耳に入っているのに聞こえない、 みたいな状態になりますよね。 そこで僕が「次は、渋谷…でしたっけ?」と 慣れない口調で言ったのが社内に流れたら、 たぶん間違いなく「そうか、次は渋谷なのか」 ってなるじゃないですか。 フダンヅカイでやりたいのって、 いま林さんが言ってくれたことにすごく近いと思います。 こうやっておはなしをしていると、 他のメディアとは全然違うことが聞けるので。 |
林 | メディア風に整えられちゃって、 逆にさらっと読まれるんじゃなくて、 なんかその、素人の人が、さも今話しちゃってます、みたいな、 なんか往来の人たちの言っているような、不安な感じ。 読み手を不安にさせるくらいの普段の言葉だといいよね。 (つづきます!) |